3)適切な酸素の量とは?


もちろん健康な方は空気を吸えばいいわけで、空気中には約21%の酸素が含まれています。登山などで4000メートル以上の高値に上るときは多分酸素がいると思います。(このあたりのことは詳しくは知りません)先ほど説明した酸素飽和度が90%以下にならないように酸素を吸うことをボクはすすめます。

問題は病気で酸素が普段必要な方です。大きく分けて2つのタイプがあります。

1)動脈の酸素が少なくて、炭酸ガスも少ないかまたは正常である人。
ここで大事なのは炭酸ガスが身体にたまっていないと言うことです。

わかりやすく言うために、「炭酸ガスがたまらないタイプ」と呼びます。つまり、換気には問題のない方です。

2)動脈の酸素が少なくて、炭酸ガスが正常よりも多い人。
つまり、炭酸ガスが身体にたまっている人。(換気が悪いんですね)

わかりやすい例を挙げると、たとえば大量に睡眠薬を飲んでしまった人。
この人はどうなるのでしょう・・・深い眠りについていますから、呼吸は浅くゆっくりしています。酸素は足りないかも知れないけれど、薬のために中枢神経はあまり働けません。

そうすると、換気は回数も1回の量も減ります。 「換気が減ると→炭酸ガスがたまる。」
これを「炭酸ガスがたまるタイプ」と呼びます。
睡眠薬の場合は一時的で、慢性のものではないので、少し例がよくないかも知れないです。

上の、1)と2)では酸素の投与の仕方が全然違います。理由は大変難しく説明するともう3ページほど必要になります。呼吸中枢の説明をしなければならなくなります。とにかく次のように覚えてください。

1)の「炭酸ガスがたまらないタイプ」は少々多い目に酸素を投与しても、問題ありません。
2)の「炭酸ガスがたまるタイプ」は理由はまた、いつか説明することにして、一般的に高濃度の酸素を投与したら、呼吸が浅くなりかえって呼吸状態が悪化することがあります。

結論:酸素不足だからと言って、たくさんの酸素を投与するのは危険。普通、0.5g〜1.0g/分ぐらいなら問題ないと思います。

 

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呼吸中枢について(参考)これは読まなくても以下のページは読んで行けます。

私たちは夜眠るときに寝ている間に呼吸が止まらないか心配することはあまりないですね。(睡眠時無呼吸症候群の方は別にして)私たちは心臓の拍動を意識的に変えることはできませんが、呼吸回数は意識的に変えることもできます。何十秒も呼吸を止めることもできます。(潜水する海女さん)また、逆に1分間に30回でも呼吸(換気)しようと思えばできます。(COPDの人はできない人もいます)でも普段呼吸を意識せずにしています。つまり、換気(呼吸)は意識してもできるし、無意識または睡眠時でもできるのです。面白いですね・・?面白くない!・・・ですか?

無意識または睡眠時の呼吸はどのようにコントロールされているのでしょうか?
それは、中枢性呼吸中枢(中枢性化学受容体)である延髄(脳の下部にある生きるために基本的な機能をつかさどっている部位と考えてください)と心臓から出たばかり大血管に付着するようにある末梢性呼吸中枢(末梢性化学受容体)があります。
今後この二つを「脳の呼吸中枢」と「血管の呼吸中枢」と呼びます。しかし、何で二つもあるんでしょう?
不思議ですね。しかし二ついるのです。自然は(あるいは神は)この地球上に生命というモノを作ったときから、この生命を絶やさない様々な工夫を凝らしてきました。別に自然は生命など造る必要はなかったのですが・・・無神論者の多い日本人には理解できないところですね。

話がそれてしまいました。それでは「脳の呼吸中枢」と「血管の呼吸中枢」の役割を説明しましょう。
「脳の呼吸中枢」は不思議なことに炭酸ガス分圧(PCO2)を測定してその結果を大脳に送り、呼吸するための筋肉(横隔膜や肋間筋)に命令を下しているのです。
つまり PCO2が正常では40Torr前後ですが、これが上昇すると(体内に炭酸ガスがたまってきた状態)呼吸(換気)しなさいと言う命令が主に横隔膜に行くわけです。
逆にPCO2が低下してくると「もう少し呼吸をゆっくりと浅くしなさい」と言う命令が呼吸筋(横隔膜や肋間筋)に行くわけです。
簡単に言えば、
「脳の呼吸中枢」炭酸ガス分圧(PCO2)を測定してその結果を分析して呼吸筋に命令を送っているのです。(簡単ではないですね)

じゃあ何で、「血管の呼吸中枢」がいるのでしょうか?肺が左右に2つあるように、また腎臓が左右に二つあるように(一つで生きることはできる)「血管の呼吸中枢」は予備と考えていいと思います。
ただしこれは働きがわざわざ違うように造られています。つまりこちら側は炭酸ガス分圧(PCO2)でなくて主に酸素分圧(PO2)を測っているのです。つまりPO2が下がれば「さっさと頑張って呼吸(換気)しなさいよ」と言う命令が呼吸筋に行くのです。逆にPO2が上がれば「もう少し落ち着いてゆっく呼吸していいのですよ」という指令が届きます。

それでは、普段から高炭酸ガス血症(PCO2が高い)の方は、呼吸中枢はどのようになっているのでしょうか?
勉強もせずにゲームばっかりしている息子にお母さんは最初は「いいかげんにゲームはやめて勉強しなさい」 と何度も言うでしょう。しかし、そんなこと無視してゲームを続ける息子に対してしまいにお母さんもあきらめて言わなくなるでしょう。
それと同じようなことが延髄の「脳の呼吸中枢」でも起こるのです。つまり、 「脳の呼吸中枢」が何度も何度も「もっとしっかり呼吸(換気)しなさいよ」と命令を出しても深くて速い呼吸をしない、(実際はできない)時に「脳の呼吸中枢」はしまいににあきらめてしまい、命令を送らなくなります。つまり「脳の呼吸中枢」は事実上休止状態にはいるわけです。二つある呼吸中枢はメインの方がなくなったのと同じになります。

残された「血管の呼吸中枢」はまだ働けます。動脈の酸素分圧(PO2の上昇や低下はきちんと測定して呼吸筋に命令を送ります。だから寝ても大丈夫です。呼吸が浅くなって酸素が低下してくれば、「ほれ、しっかり働けよ」と命令を送ります。と言うことは動脈の酸素が上昇するとどうなるのでしょう?

「血管の呼吸中枢」は酸素がたっぷりあるから、「こんなに酸素が十分あればしばらく命令は控えておこう」と考えるのです。ということは何を意味するのでしょうか?

もともと炭酸ガスの高いタイプの人は炭酸ガスの分圧を測る「脳の呼吸中枢」が休んでいて、「血管の呼吸中枢」しかないのと同様です。これは主に動脈の酸素の量(分圧)を測定して低ければ呼吸筋に「もっと働きなさい」という命令を送るのですが、高ければ呼吸筋に「休んでよし」=「呼吸を止めてよし」と言うことになります。

だから、これだけ知っておいてください。もともと高炭酸ガス血症の方に高濃度の酸素を投与すると、呼吸は止まるかも知れないということです。

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