2)なぜ酸素が必要なのか?どんな人に酸素の吸入が必要なのか?


なぜ酸素が必要なのかは1)のところで説明してしまいました。つまり酸素とブドウ糖によって人間が生きてゆくためのエネルギーを作り出しているのです。時にはブドウ糖のかわりに脂肪などが使われることもあります。また、酸素が不足したときには酸素なしでもエネルギーを作り出す方法を持っていますが、あくまで一時しのぎでした。酸素が全くなしでは生きて行けません。

高橋尚子さんがシドニーで女子マラソンではじめて日本に金メダルをもたらしました。またアテネでは野口みずきさんが金メダルを取りました。本当にすばらしいことです。彼女たちは酸素を節約しながら走っているのです。これはこれで特別な才能と訓練がいります。

先ほど少し動脈血液ガスのお話をしましたが、その中のPO2(酸素分圧)が正常かどうか推定するには、小さな機械で簡単にはかれます。酸素飽和度(SpO2)測定器と言います。

決して、酸素飽和度(SpO2)は酸素の分圧(PO2)とは平行するものではないですが、貧血や黄疸などがなければ、かなり参考になります。

しかし、あくまでも目安です。酸素は十分あっても、換気の方まではうまく行っているかわかりません。(つまり酸素が十分高くても、もしかしたら炭酸ガスも高いかも知れません・・・)

酸素分圧(酸素飽和度)が正常でも、それでいいわけではありません。炭酸ガス分圧が高ければそれは治療を要するまずい状態なのです。

でも、自宅で簡単に酸素飽和度がはかれるのですから、便利な時代になりました。よくヒマラヤ登山など高地に行く人は必ずこれを持ってゆきます。テレビでみていると酸素飽和度が70%です、とか言っています。病院でも、なかなか出会わない値です。登山家は酸素飽和度が70%でもハーハー言いながら上っています。本当に登山家は呼吸生理の基本も知りませんね。だから事故で亡くなったりするんですよ。

酸素飽和度でなく、PO2(酸素分圧)が60Torr以下になると、これは呼吸不全状態になります。酸素が必要な状態と言うことです。肺炎や気管支喘息発作などで一時的に酸素分圧が下がることもありますが肺炎や気管支喘息の発作がおさまれば、酸素分圧は普通80Torr以上になります。ですから入院中の一時期だけ酸素を必要とする方と、ほとんど24時間酸素を必要とするか違います。ではどんな方が常時酸素を必要とするのでしょうか?

その前に復習をしておきましょう。

・まず酸素分圧(PO2)は酸素飽和度(SpO2)とは全く違うと考えてください。

・酸素分圧は酸素を吸入すれば150Torrや200Torrになりえますが、酸素飽和度は100%が最高です。では、酸素飽和度は役に立たないかというとそんなことはないです。同じ人が同じ機械を使っていれば、肺の状態がよくなったか悪くなったかが、わかります。これは重要な情報です。

・ごく一般的には酸素分圧(PO2)は酸素飽和度(SpO2)の関係は次のように考えてください。

酸素飽和度90%=酸素分圧60Torr
酸素飽和度60%=酸素分圧30Torr

でもあくまで目安です、慢性呼吸不全の方は2ヶ月に1度ぐらいは血ガスの測定をした方がいいでしょう。(もちろん息苦しいなどの症状が出てきたときには臨時で検査が必要です)でも、酸素飽和度90%以下は呼吸不全状態です!!

・先ほども言いましたが、同じ人が同じ機械で酸素飽和度をはかっていれば、その上下は役に立つ目安です。いつもより低いなら、酸素のチューブがおれていないか、または中に結露して水がたまっていないか、または、携帯用のボンベの酸素がなくなっていないかなどいろいろなことを考えなければなりません。そしてすべて否定されたら、その方は肺が悪くなっているかも知れません。やはりこのときは酸素分圧をはかりましょう。その他炎症反応やKL-6(後で説明する機会があるでしょう)も調べてもらいましょう。

・動脈の採血で酸素分圧を測るのは患者さんには痛みを伴うのでつらいことかも知れません。しかし酸素飽和度とは違った、非常に多くの情報が手に入ります。炭酸ガス分圧、PH、重炭酸ガスイオンなど、それにこのごろは電解質も同時に測ってくれます。わずか0.5mlでこれだけ多くの情報が得られるのです・・・

・毎日は酸素飽和度。2ヶ月に一度や呼吸状態の変化時は血液ガス。

 

それでは、酸素吸入が必要な人はどんな人かというと

1) チアノーゼ型先天性心疾患
2) 高度慢性呼吸不全例   在宅酸素療法導入時に動脈血酸素分圧55mmHg以下の者及び動脈血酸素分圧60mgHg以下で睡眠時又は運動負荷時に著しい低酸素血症を来す者であって、医師が在宅酸素療法を必要であると認めたもの
3)肺高血圧症
4) 慢性心不全(平成16年4月より)   医師の診断により、NYHA3度以上であると認められ、睡眠時のチェーン・ストーク呼吸がみられ、無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸数及び低呼吸数をいう)が20以上であることが、睡眠ポリグラフィー上確認されている症例。

安静時に動脈血酸素分圧55mmHg以下の者は在宅酸素療法の患者さんの2割ぐらいだと思います。動脈血酸素分圧50mmHg以下ならば、呼吸器の身体障害者1級に該当します。

私たちが外来で見ている120人(2006年1月現在)のほとんどの方は上の青い字に該当します。
安静時はほとんどなんの症状もないが、歩き始めるとすぐに休まねばならないとか、わずかな坂道で立ち止まってしまう方が多いです。数段の階段が絶壁のように見えるそうです。

それではそんな病気の方が多いかと言いますと、COPD(タバコで肺が壊れる病気)結核後遺症、肺線維症、肺癌などの方が多いです。最近特に肺癌の方が増えてきています。肺癌の方も手術の後片肺になった方とか、手術はできないが、抗癌剤を投与している方なども一時的なHOTになります。(HOT=home oxygen therapy 家庭内酸素療法)

それでは次のページで適切な酸素の量について説明します。

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