)肺の構造と、呼吸という運動


肺の構造なんて難しいタイトルを書きましたが、大まかに肺がどのようなかたちをしていて、どのような働きをしているか見てみましょう。まず図1を見てください。鼻から入った空気も口から入った空気も咽頭のところで合流しています。ですから、呼吸は鼻か口かどちらかが空いていればできるのです。


咽頭で一つになった管はその後、前方にある気管と後方にある食道に分かれます。気管の入り口である喉頭は食べ物を飲み込んだりするときにフタができるようになっています。このフタがうまく働かなくなったら、食べ物が気管に入ったりします。(誤嚥ですね。ご縁のないように)

このフタのことを喉頭蓋といいます。別に覚えなくてもいいですよ。

喉頭のところに声帯があり、ここで声を作っています。ここを超えて中にはいると気管があります。そして気管は心臓の上の高さで左右に2分岐します。気管の前方は23個ぐらいの馬蹄形の軟骨で囲まれています。(写真1)

人間も大昔、自然の中で狩猟しながら生きていたときに、鹿や、イノシシなどを貧弱な棒ぎれの先に石の矢じりなどを付けて戦っていたと思うんです。そのころから、大事な臓器は守るような構造になっています。心臓は胸骨で、気管は気管軟骨で、脳は硬い頭の骨と頭髪で守られていました。うまくできています。これで鹿の角などから命を守ってきたのだと思います。

話が少しそれました。再び気管に話を戻します。気管は先ほど左右に分かれるといいましたが、それぞれ右主気管支、左主気管支という名前になります。つまり気管からさきはすべて気管支になります。
原則として気管支は2分岐を繰り返します。約20回あまり分岐を繰り返すとガス交換(いらなくなった炭酸ガスと酸素を交換する)の現場である肺胞にたどり着きます。肺胞へつくまでの道のりは気管や気管支ばかりで、これらはガス交換をすることはできず、単なる肺胞までのパイプの役しか果たしていません。

詳しいことをいえば図2の様に呼吸細気管支から肺胞は少しずつあらわれてきます。

つまり気管支の働きは酸素を肺胞まで運ぶ道であることです。そこから先の肺胞で肺本来の働きであるガス交換が行われるのです。

 

ここで話は少しそれます。最も外界にさらされている臓器は肺なんです。道路を歩くとき車の排気ガスを吸わねばならないし、時には胸膜中皮腫を引き起こすアスベストの粉塵を吸わねばならないこともあります。そしてインフルエンザのウイルスを吸い込むこともあります。またとんでもないことですがサリンなんかを吸わねばならないはめになる可能性もあります。
それは、人間が 片時も呼吸をやめることができないからです。人間の身体には酸素を蓄えておく場所がないのです。
そういうわけで、肺はいつも危険にさらされています。 それなら肺は無防備ではいけないはずです。いくつもの防御機構が働いているから、私たちは外に出て買い物したり、働いたりできるのです。

防御機構の最も原始的なもので効果的なものは「咳」なのです。患者さんの中には、咳止め下さいと言う方がいますが、タンを伴う咳をしている方は咳を止めるのはよくないです。こんな時は去痰剤をもらうのがいいです。
第2の防御機構は「気道のクリアランス」です。これは少し説明がいりますね。上の図2を見てください。気管〜終末細気管支まで線毛(+)となっていますね。つまりかなり細い気管支まで(直径1mmぐらいまで)気管支の内腔の表面は粘膜で覆われていて、粘膜の主なものは線毛上皮細胞という絨毯のような毛をたくさん持った細胞で覆われています。そしてこの毛(線毛)がもうのすごい早さで振動します。(1分間に1500回ぐらい)そしてこの線毛の上に粘液の膜が載っていて、この粘液にひっついたゴミやばい菌やいろいろな細胞の死がいが口の方に運ばれてきます。


口までたどり着くと私たちは自然に飲み込んでいます。これを全部はき出すとすると、60〜70mlぐらいになるでしょう。たばこを吸う人や、気管支炎の人はこのタンの量が極端に増え、はじめてタンと意識するようになります。かなりホコリの多い環境で仕事をされている方は、翌朝に灰色のタンの固まりがでると思います。これはこれで正常なのです。クリアランスが働いてくれているのです。タバコを吸う方は線毛の振動もやや元気のないものになるようです。ですから午後からもタンが出ます。やはり午後からもタンが出るのは病的と考えていいと思います。
このクリアランスの機構がないとボク達の肺の奥はゴミ捨て場のようにゴミだらけになります。ありがたい機構です。

第3の防御機構はガス交換の現場である肺胞と言うところにあります。肺胞はブドウの房のようなたくさんの球型の小部屋ことです。ボク達の吸った空気は最終的にはここにたどり着きます。ガス交換については後で説明します。今は構造が中心です。


ボク達の肺は気管支と血管と後はブドウの房のような肺胞からできていると考えてもいいと思います。(ややおおざっぱですが)これが本当にうまくできているのです。 肺胞(ブドウの房)をすべて(約3億)広げるとテニスコートぐらいの広さになるといわれています。(驚きですね)この肺胞の中にばい菌や小さなゴミが入ってくるとそれを食べてくれる細胞がいます。(マクロファージといいます)この貪食細胞が第3の防御機構です。


これが自動の掃除機のように 部屋の中をぐるぐる回ってあやしい奴が入ってこないか監視しています。もしあやしい奴が来たら近づいて、明らかに外敵と判断したら細胞の中に食べてしまいます。かわいい奴ですね。こんな細胞がボク達の肺に何億といるのです。防御機構は何重にも肺を守ってくれています。もちろん肺炎になったりすると血管の中からどんどん肺胞の中に白血球などが入り込んできます。(援軍が来るのです)

ガス交換のお話の前に中枢神経系と免疫系の違いをお話しておきます。中枢神経系とは目を動かしてものを見たり、喋ったり、手足を動かしたりするようなことはすべて大脳が命令を出しています。つまり脳が身体のすべての動きをコントロールしているのです。ですから舌をかんだりしないし(たまにかむのは鈍い人?)かゆいところを適度な強さでかけるのです。血が出るほどの強さで掻く人もいますが・・・・・・
つまり中枢神経系は一箇所が統括しているのです。欠点は脳がやられると他に変わって運動などを統括する部位がないと言うことです。

それに対して免疫系はその臓器ごとに守り方が違います。肺の場合は先ほどお話ししました。肺の一部がなくなっても、他の残された肺はちゃんと防御機構を持っています。先ほどは咳・気道のクリアランス・貪食細胞などのことをお話ししましたが、気管支喘息の場合、アレルゲン(ダニや家のホコリなどが多い)が気管支に入ってくると、「おっ、嫌な奴が入ってきたぞ」と言うことでこれ以上入ってこないように、気道の粘膜で炎症を起こし、粘液をたくさんだし、しかも気管支を収縮させてアレルゲンが入ってくるのを防ぎます。
なるほど賢いやり方ですが、すべての気管支がこれをすると喘息の発作になります。
つまり免疫系はどこか一箇所からの命令で動いているのではなくて、個々に判断して動いているのです。だから時々おかしなことも起こります。免疫が原因の病気はたくさんあります。つぎに肺の重要な働きであるガス交換について簡単におはなしします。

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